2011年前期 第6回 細胞生物学セミナー
日時:7月12日(火)15:30~
場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
High magnetic field induced changes of gene expression in
Arabidopsis
Paul, L. A., Ferl, J. R., Meisel, W. M. (2006)
BioMagnetic Research and Technology, 4:7
強磁場はシロイヌナズナにおける遺伝子発現の変化を引き起こした
核磁気共鳴画像法(MRI)などの非侵襲の医生物学的画像診断器具の普及により、強磁場はますます広く利用されつつあるため、生命システムにおける、これらの場の強度に関連した分子レベルでの影響の解明が最重要となっている。非常に強力な定磁場と物体の反磁性相互作用を用いて実現できる磁気浮上を、地上で微小重力環境を実現する方法として近年注目されている。本研究のきっかけは、この磁気浮上による微小重力環境が植物の遺伝子発現に与える影響の研究を行う目的で使用する強磁場自体が植物にどのような影響を与えるかという興味から始まった。
本研究では、βグルクロニダーゼ(GUS)レポーター遺伝子にアルコール脱水素酵素(Adh)遺伝子のプロモーターをつなげた、ストレス応答遺伝子の形質転換シロイヌナズナを使用した。そして3週齢の形質転換シロイヌナズナ植物を使用して、30
Tまでの磁場強度の生物学的な影響を調べた。強磁場環境は超伝導ソレノイド電磁石を使用して実現した。強磁場におけるAdh/GUSの組織の特異的発現や分布は、組織化学的な染色によって評価し、またGUS活性度を定量的に評価するため、蛍光分光分析を行った。シロイヌナズナにおける遺伝子発現変化の網羅的な解析は、マイクロアレイを用いて評価し、遺伝子発現変化の定量的な解析はqRT-PCRにより行った。
その結果、約15 Tを超える強磁場においては、根と葉におけるAdh/GUS導入遺伝子の発現が誘発された。またGUS活性度の定量分析によって、導入遺伝子の発現を誘発したストレス応答は、静磁場の強度に依存しておらず、正弦波磁場リップルなどの他の磁場因子と関係している可能性が推察された。次に、マイクロアレイ解析の結果、8000遺伝子のうち114遺伝子が2.5倍以上に発現しており、強磁場が遺伝子に広範な影響を及ぼすことが示唆された。このマイクロアレイ解析の結果は、発現の変化が見られた114遺伝子のうち、ホメオボックス転写因子遺伝子(Athb12)、デヒドリン遺伝子(Xero2)、キシログルカンの切断や再結合などの細胞壁の生合成において多くの過程に関与している、エンド型キシログルカン転移酵素遺伝子(Xtr7)、耐凍性遺伝子(Cor78)の4遺伝子について、qRT-PCRを行うことによって検証した。Xtr7遺伝子を除く3遺伝子については、コントロールと比較して遺伝子発現量が増加していた。一方、Xtr7遺伝子は遺伝子発現量が減少していた。
本研究において、高分子の磁気泳動や磁場配向における磁気エネルギーは、熱エネルギーと比較してかなり小さいが、遺伝子発現制御における高次構造変化を錯乱するのに十分なエネルギーであり、結果として植物における多様な遺伝子発現の変化を引き起こしたと推論される。本研究のデータは、磁場による代謝プロセスへの影響を示唆し、将来、生命組織の安全な曝露基準を測定する研究計画に役立つと思われる。
興味を持たれた方は、是非ご参加下さい。進藤裕美